2023年10月から始まるインボイス制度。
2022年12月に税制改正でも目玉の一つとなっていました。
その改正によってインボイスの開始に伴い、消費税の納税額の計算方法が3種類に増えることになりました。
それぞれの計算方法を整理してみたいと思います。
消費税の計算方法が【原則・簡易・20%特例】の3種類に
これまで消費税の納税義務が免除され申告していなかった人も、インボイスに登録することによって消費税を確定申告して納めなければならなくなります。
消費税の納税義務は、2年前の売上が1,000万円未満かどうかが基準になっていたので、それを下回っている人は基本的に消費税の確定申告が免除されていました。
そして、消費税の確定申告をしていなくても、消費税を請求することは可能でした。
それがインボイス制度が始まると、インボイスに登録しない=消費税免除のままだと消費税を請求することができなくなります。
例えば、今まで10万円の売上に対して10%の消費税1万円を乗せて税込み11万円で請求していた場合、それができなくなります。
インボイスの登録は任意ですが、インボイスは自分だけでなく取引先にも影響があります。
それは、インボイスに登録していないと、取引先の消費税を控除することができず、その分取引先の負担が増えてしまう点です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
その点も含めて、実際は多くの人がインボイスに登録することになるでしょう。
今まで納める消費税の計算方法は、原則的な方法、簡易的な方法の2つでしたが、インボイスでいきなり負担を増やすのはどうなのという点から、緩和策としてもう1つ計算方法が追加されています。
各計算方法をまとめてみました。
1.売上の消費税から支払いの消費税を引く(原則課税)
消費税の原則的な計算方法は、売上にかかる消費税から仕入れや経費の支払いにかかる消費税を差し引いて納税額を算出する方法です(原則課税という)。
例えば、売上が税込770万円で仕入・経費の支払いが税込440万円の場合、
70万円 ー 40万円 = 30万円
の計算で30万円が納める消費税です。
売上で預かっている消費税から、自分が支払った分の消費税を引くというイメージで、これが消費税の計算の基本的な考え方になります。
ただこの方法は売上と支払いのすべての取引について消費税の経理をする必要があり、事務的な負担も大きく、計算のミスも起こりやすいです。
なので、一定条件を満たす場合は、簡易的な計算方法が認められています。それが次の方法です。
2.売上の消費税の〇〇%を納める(簡易課税)
この方法は、以下のように売上の消費税に対して業種ごとに決まった割合を掛けて納税額を求めます。
売上の消費税70万円 × 50%(サービス業の場合) = 35万円
1の原則課税だと、売上と支払いの消費税を差し引きして計算していましたが、この方法は式のように売上の消費税に一定割合を掛けるだけで計算ができます。
売上の消費税だけ正しく把握していれば計算できるため、1の原則課税と比べて簡単な方法として「簡易課税」と呼ばれています。
控除できる割合は業種ごとに以下のように決まっています。
卸売業 10%
小売業 20%
製造業 30%
その他 40%
サービス業 50%
不動産業 60%
ただし簡易課税で計算するためには、条件があります。
① 2年前の売上が5,000万円以下で、かつ
② 簡易課税を適用したい事業年度中に届け出(簡易課税制度選択届出書)を提出(※令和8年9月30日の課税期間まで)
というものです。
本来、条件②の提出期限は適用したい事業年度が始まる前まででしたが、インボイスの特例により令和8年9月までは、適用したい事業年度中に提出すれば適用可能となっています。
また、一度簡易課税の計算方法を採用したら、2年間は1の原則課税に戻ることができないというルールがあります。
例えば、「支払いの消費税 > 売上の消費税」となった場合に、1の原則課税であれば超過した分(払いすぎた分)の消費税は戻ってきます。
ですが、簡易課税を使っている間は、1の原則課税を使うことができず、売上の消費税の一定割合を納めることになります。
言い換えると、簡易課税では必ず納税額が発生するのです。
なので、この簡易課税を採用するかは、自分のビジネスモデルと照らし合わせて事前に必ず検討が必要です。
この辺は以下の記事でも解説しています。
また、次に説明する3の20%特例は、簡易課税の届け出を提出している状態でも、申告時に簡易か特例のどちらかを選択可能です。
3.売上の消費税の20%を納める(インボイスの20%特例)
今回の改正で、取り扱いが決まった計算方法です。
考え方は2の簡易課税と同じですが、こちらはどの業種でも一律20%で計算します。
売上の消費税70万円 × 20% = 14万円
この20%特例は届け出等の必要なく、申告時に確定申告書に20%特例で計算することを明記(多分チェックボックスで)すればOKです。
この20%特例の適用は、令和8年9月30日を含む期間までの時限措置となっています。
適用対象者は、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者になる人です。
具体的には、2年前の売上が1,000万円以下だから消費税を納めなくていいのに、インボイス登録によって課税事業者になる人です。
2年前の売上が1,000万円以下でも、インボイス前から自分で選択して課税事業者になって申告していた場合は使えません。
また、対象が「免税事業者が」インボイス登録によって課税事業者になる場合なので、2年前の売上が1,000万円以下かどうかの判定は、申告ごとに必要です。
2年前の売上が1,000万円以下かどうかの判定は、令和5年10月1日の開始年度だけではないことに注意しましょう。
20%特例が発表される前に「課税事業者選択届出書」を出してしまったケース
この20%特例は昨年12月に発表されたものなので、中には免税事業者だけどどうせインボイスになるからと「課税事業者選択届出書」をすでに提出してしまっている方もいるかもしれません。
この場合、インボイス開始の令和10月1日を含む課税期間中に「課税事業者選択不適用届出書」(要は取り下げの書類)を提出すれば、インボイス開始の令和10月1日分以降について20%特例での計算が可能になります。(実際の提出は法案可決の4月以降になる)
「課税事業者選択不適用届出」を提出しないと課税事業者の効力が失われず、インボイス開始前から課税事業者だったと扱われてしまうので、20%特例で計算できなくなります。
なので、当てはまる人は忘れず提出して対応しましょう(ややこしすぎる…)
簡易課税を選択していても20%特例は選択できる
上のケースと似ていますが、20%特例なんて出てくると知らず、すでにインボイス登録とともに簡易課税を選択している人もいると思います。
ですが、簡易課税を選択していても、20%特例は申告時に選択可能です。
なので、簡易課税を取り下げるという必要はありません。
(ただし、簡易を出しているということは原則課税は選択できません)
要するに20%特例がある期間中は、
- 簡易課税を選択している → 簡易課税 or 20%特例(申告時に選択)
- 簡易課税を選択していない → 原則課税 or 20%特例(申告時に選択)
のパターンに分けられることになります。
どの計算方法が有利になるか、20%特例期間中は毎期確認すべき
緩和措置ということで20%特例が新たに追加されましたが、選択肢が増えた分余計複雑になった感もあります。。。
20%特例が追加されたことで、簡易課税を検討していた人も20%特例を使うケースが増えると思います。
ただ卸売業の場合は、簡易課税が10%納税なので、20%特例よりも有利です。
逆を言うと、卸売業以外は20%特例と簡易課税の比較で、簡易を選択するケースはないといえます。
が、1,000万円を超えたら20%特例を使えなくなるので、1,000万円ラインにいる方は簡易課税届出のタイミングには気をつけておく必要はあるかなと。
ひとまず卸売業以外は、売上に占める経費の割合をシミュレーションして80%を下回れば20%特例、上回れば原則課税も検討と言う流れになるかと。
原則課税と20%特例で選択の場合、届出はないので申告時に比較可能ではありますが、原則課税は消費税をすべて経理しないといけないのでその点も考慮する必要があると考えます。
売上の変動によっては、簡易の移行のタイミングもあるので毎期確認は必須かなと思います。選択肢が多いと落とし穴が怖いです。
また、改正でインボイス登録申請期限が緩和され、10月1日の制度開始に間に合うためには、遅くても9月15日までに提出すればよくなったので、まだインボイスの届け出を出していない人は、その辺も踏まえて冷静にやるべきことを。
自分はどのケースに当てはまりそうか。でもこれ税理士無しで、みんな正しく判断できるのだろうか…
とりあえず、ややこしいのでケース別でどの計算方法を選択すべきかについては、別記事でもう少し深掘りしようかと思います。